日本の農地の多くは連作に次ぐ連作で土壌は疲弊し、農作物は連作障害を始め様々な病虫害に侵されています。農薬を施しても駆除できない病虫害さえ発生してきている深刻な状況にあります。地球温暖化による異常気象も農業に深刻な影響を与えています。
これらの問題を解決する手段として化学分析を行い、その結果にもとづき欠乏したものを投入したり、発生した病虫害にはより強い農薬を散布するという方法を用いていますが、連作障害や病虫害の問題はいまだに解決されていないのが現状です。それどころか化学分析にもとづき投入したはずの成分が土壌中に残留し、逆に農作物に悪影響を及ぼすことさえあります。植物は大地、水、光、微生物等の相互作用により成り立っています。農業の抱える問題を解決するにはこれらの相互作用を理解しなければなりません。
そこで化学分析に加え、土壌硬度計による物理性の測定や土壌微生物の菌相分布の測定を行うことにより、土壌や植物の状態を総合的に評価します。またこれらの分析結果を一時期だけ考慮するのではなく、継続的に分析することで根本的な解決方法が見つかるはずです。
農薬や化学肥料の蓄積が問題視され、土壌の劣化が年を追うごとに進行しています。野菜類の栄養素としてのミネラルは 30 年前に比べて半分になっているとも言われています。近年では野菜類からは十分なミネラルを摂取できないためにミネラルやビタミンなどのサプリメントを服用する人達が急激に増えてきています。このようなミネラル・ビタミン不足の野菜が出来るようになったのは土壌に原因がある場合が多く、これらの土壌の問題を分析を通じて多角的に捕らえ、問題を解決する方法が少しずつ明らかになってきています。現在の土壌の問題点を大きく 3 つに分類すると 1 化学性の問題、2 生物性の問題、3 物理性の問題に集約できます。
1、土壌化学分析(化学性)
SPCA-6210 島津製作所/SFP-2 富士平工業
土壌中のNPKなどの化学成分の含有量を測定します。原子吸光法により微量要素の分析も行います。
- 基本11項目セット(主に畑作土壌)6,000円(税別)
- ①EC ② PH ③ CEC(塩基置換容量) ④ CaO(交換性石灰) ⑤ MgO(交換性苦土) ⑥ K2O(交換性加里) ⑦ P2O5(可給態リン酸) ⑧ リン酸吸収係数 ⑨ NH4-N(アンモニア性窒素) ⑩ NO3-N(硝酸態窒素) ⑪ 腐植
- + 鉄・ケイ酸 2項目セット(主に水田土壌)+1,500円(税別)
- 微量要素一斉セット +6,000円(税別)
- ⑫SiO2(有効態ケイ酸) ⑬Fe(水田:遊離酸化鉄、畑:可給鉄) ⑭Mn(交換性マンガン) ⑮Cu(可給態銅) ⑯Zn(可給態亜鉛) ⑰B(ホウ素)
- 微量要素個別分析 SiO2, Fe, Mn , Cu, Zn, 各+1.000円(税別)
- 微量要素個別分析 B(ホウ素) +3.000円(税別)
※微量要素のみの分析は受け付けておりません。基本セットに追加ください。土壌化学分析は土壌検体到着後2週間以内に行います。但し、検体数が多い場合は2週間以上かかる場合もございますのでご連絡ください。
2、可給態窒素(地力窒素)、全炭素、全窒素分析について
今、可給態窒素(地力窒素)が作物の生産を左右し、新しい土づくりの指標として注目されています。可給態窒素とは有機質のタンパク質を微生物が分解して、植物が利用できる形の窒素です。そのもととなる全窒素量、全炭素量とバランスを見ることで土づくりの方向性が見えてきます。
- 全炭素・全窒素分析(T-C,N) 5.000円(税別)
- 可給態窒素 3.000円(税別)
畑土壌の可給態窒素、全炭素、全窒素分析について
株式会社川田研究所 川田 肇
工学博士。静岡大学物理学科卒。筑波大学大学院物理工学修了。高エネルギー物理学研究所非常勤研究員の後、有限会社川田研究所に入社。平成26年8月 代表取締役に就任。
1)はじめに
土壌分析は土壌の養分状態を知る上で、施肥の基本となる重要な物です。なかでも窒素成分の分析は作物の生育に重要な項目であり、これまで無機の窒素(硝酸、アンモニア)の分析が主流でしたが、近年の有機農業の普及に伴い有機物の施用による地力窒素(可給態窒素)が作物の生産を左右する重要な項目として注目されています。国では地力増進基本指針として畑土壌の可給態窒素について土100gあたり5mg以上を目標値として掲げています。
しかしこれまで可給態窒素の測定は4週間培養など手間が掛かり、操作も複雑で分析機関でも測定できないことが多い状態でした。2018年に九州大学の上園氏1)が可給態窒素の簡易分析法を開発し、土壌を80℃で16時間水抽出したろ液の有機態炭素が従来の可給態窒素と高い相関があることを示しました。窒素を測るのに何故炭素を測るのか疑問に思われるかもしれませんが、実は可給態窒素の多くは低分子のたんぱく質であるため、溶け出した炭素量を測定しても窒素量を見積もることができるという理屈です。
2)可給態窒素について
土壌中の可給態窒素は微生物の作用により無機化される窒素なので、大きなたんぱく質を小さくしていく微生物が多い環境を作ることが重要になります。特別な微生物を投入することもその解になりますが、私たちは適切な土壌環境を作ることにより自動的に可給態窒素を増やすような微生物が増える仕組みを見つけたいと考えています。
適切な土壌環境とはどのようなものか? どのような条件が必要なのか? 環境を変えるためにどのような資材を投入することが必要なのか? などを提案していきたいと思っています。それには現状を知ることが重要になります。従来の土壌分析の項目も必須になりますし、可給態窒素がどの程度あり、可給態窒素のもとになる全窒素量がどの程度あるのかも重要な分析項目になります。
つまり土壌中の窒素の形態がどのような割合になっているのかを調べることが重要になります。実は同時に炭素の形態を調べることも重要になってきます。このように窒素と炭素の形態を調べることにより作物の品質や収量の安定に寄与することを願っています。
これまで施肥設計では窒素分に関しては硝酸とアンモニアの測定値から窒素施肥量を決めていくことが多かったのですが、今後は可給態窒素も含めた施肥量へと変えていく必要があります。また土壌中の可給態窒素を増やしていくためにどのような有機物が有効なのか、土壌中の窒素や炭素がどのように植物に利用できる形態に変わっていくのかも非常に面白いテーマになってきます。
3)全炭素、全窒素分析について
有機物の形態変化を追うためには土壌中の全炭素・全窒素量の測定も重要になります。全炭素、全窒素は言葉の通り、すべての炭素、窒素量を表し、全窒素量の内どのくらいの割合で可給態窒素や無機態窒素が占めているのかを調べることによって土の良し悪しの指標になればと期待しています。
またこれまで50点ほどの土壌を調査したところ全炭素/全窒素(CN比)は10程度のところが多く(図1)、土壌の種類によって絶対値は大きく変わってきます。黒ボク土などは数値が高くなり、砂壌土などは小さくなります。ベースとなる土壌を土壌改良により全炭素、全窒素量を増やしていく必要があります。実際に緑肥のすき込みによる土壌改良によって高い全炭素、全窒素量を維持して、高品質な農産物を生産しているところも現れています。また可給態窒素/全窒素は平均で僅か1.5%であり(図2)、可給態窒素の目標値5mg/100g以上にするには全窒素で300、全炭素で3000(mg/100g)以上を目標にする必要がありそうです。
また可給態窒素に変換するのは土壌微生物であるので、微生物が持続的に増えやすい環境を如何に作るかも重要なテーマになってきます。そのためには有機物つまり炭素源が必要であり、多くの炭素を土壌に供給する方法として、端境期の緑肥作物の土壌へのすき込みは非常に有効な手段ではないかと思われます。緑肥作物のすき込みは、土壌の化学性だけでなく物理性の改善効果も非常に高いので、作物の根域拡大、土壌耕盤の消失など様々な効果が期待されます。
4)最後に
有機物施用により土壌環境を整えて、農産物の品質や収量の安定を目指すことはとても重要なテーマでありますが、近年の地球温暖化による環境変化は農業生産を不可能にしてしまうほどの切実な問題であります。毎年日本のどこかで、台風や大雨による大災害が起きることが当たり前になっています。実は農業もその地球温暖化を促進している業界でもあります。空気中の炭素(二酸化炭素)の2倍以上の炭素が土壌には蓄積されています。従来の農法では有機物施用量が少なく、土壌から排出される炭素量の方が多い状態でした。
これからは空気中の二酸化炭素を光合成により炭素化合物に変えた有機物を土壌に投入して、土壌から空気中に排出される炭素量よりも多くの炭素を土壌に入れて、地球温暖化を少しでも遅くらせて、持続可能な農業生産ができる仕組みを早く構築していかなければなりません。この考えは高知の故山下一穂さんが提唱していた「畑まるごと堆肥化」を再構築したにすぎませんが、生前の山下さんと約束した今後の農業に重要な指標づくりがさらに大きな地球規模の環境改善に役立つことを目指して、これから邁進していきたいと思っています。1) 生産現場で実施可能な畑土壌可給態窒素の簡易評価法と施肥診断システムの開発(https://catalog.lib.kyushu-.ac.jp/opac_download_md/1932017/agr0181.pdf)
3、土壌菌相分布の測定(生物性)
各生産者の畑の土壌から栄養分を取り出し、寒天培地を作ります。その培地に土壌の希釈液を塗り、菌を培養します。培養された菌は一般細菌・放線菌・糸状菌の3つに分類し、さらに土壌1グラムあたりの総微生物数を計算します。化学肥料を多投していたり、連作障害がでていることころは糸状菌の割合が高くなることが予想されます。
●土壌菌相分布の測定 15,000円(税別) *菌相分布の測定には2~3週間かかります。
■土壌菌層分布の測定例
4、土壌物理性の測定(物理性)
現代農業は生産性の向上などから、機械の大型化や大型施設栽培などにより、工業型農業経営をしなければ生産者は生き残れない環境になっています。土壌は大型のトラクターに踏み固められ、耕うんすればするほど、表層から15~20cmのところに耕盤層が形成されます。耕盤層は土壌の通気性や排水性が低下し、作物の根の伸長を妨げるだけでなく、干ばつや長雨の影響を非常に受けやすくなります。硬度計の活用によって土壌の硬さを1cm刻みで60cmの深さまで測定でき、耕盤層の形成が一目で分かり、物理性の改善ポイントが明確になります。
●現地に調査員を派遣するため交通費、人件費等が掛かりますので、別途お問い合わせください。
■土壌の測定例
5、放射能検査
8,000円(税別) 詳細はお問い合わせください。
6、分析結果の見方
■〇〇mg/100g =〇〇kg/10a (作土10cmとした場合)
→CaO190mg/100gは10a当り石灰成分が190kg含まれていること。
①PH・EC
高PH/低EC・・・石灰が多い。
高PH/高EC・・・肥料過多。
低PH/低EC・・・肥料不足。
低PH/高EC・・・窒素肥料過多。
*ECは窒素肥料の残留量と密接な関係があります。
ECが1mS/cmの場合には硝酸態窒素が20mg/100g残留がある言われます。
②CEC(陽イオン交換容量)
CECは土が石灰などの塩基類やアンモニアなどの陽イオンを保持する力を表しています。この数値が大きい程、土が塩基類などを多く保持できます。
③鉄(Fe2O3)、ケイ酸(SiO2)
鉄は欠乏はあまり起こりませんが、塩類が集積し、PHが高くなった時には吸収が阻害される事があります。(酸化) また、稲の場合は遊離酸化鉄が0.8%以下の場合酸素不足になり、硫化水素が発生しやすくなります。ケイ酸は10mg/100g以下になると欠乏し、稲の場合では倒伏などが起こりやすくなります。
④マンガン(Mn)、ホウ素(B)
マンガンは葉緑素生成や光合成に関係します。欠乏すると光合成速度が低下し、イネ科植物やみかんでは新葉が黄化壊死します。ホウ素は窒素の代謝、カルシウムの吸収、糖分の移行に関係しています。欠乏すると生長点が止まり壊死します。逆に有効態ホウ素が6ppm以上になると発芽障害が起こりやすくなります。
⑤腐植
腐植の適正値は3%以上です。堆肥やボカシ、稲藁などを施すと増えますが、土の深さ方向にも充分に施す事が重要となります。
⑥塩基類と飽和度
火山灰土壌での塩基類の適正値(果菜類)は大まかに次のようになっています。石灰(CaO)300~450mg/100g 苦土(MgO)30~50mg/100mg 加里(K2O) 15~25mg/100g
しかし、実際には圃場にはそれぞれ差があるために、より圃場の土に合わせた肥料の残留量を知る必要があります。塩基飽和度はその圃場のCECに対してどの程度塩基類が入っているか求めたものです。石灰飽和度、苦土飽和度、加里飽和度は石灰、苦土、加里がCECに対して何%入っているかを表し、それぞれの合計を塩基飽和度といい、塩基飽和度が100%を超えている場合には土が保持できない程の量の肥料分が入っていることになります。CECが20以上ある圃場の場合塩基飽和度は80%が良いとされ、CECが15未満では作物が必要とする量の塩基類などを保持できないために塩基飽和度を100%以上にした方が良いといわれています。
⑦リン酸(P2O5)、リン酸吸収係数
リン酸は大よそ50~100mg/100g程度入っているのが良いとされますが、やはり圃場毎に土が違うために土に合わせたリン酸施用量を求めるためにリン酸吸収係数があります。リン酸はリン酸吸収係数の5~10%を施すのが良いとされます。例えばリン酸吸収係数が1000の圃場ではその5~10%、50~100mg/100gがその圃場のリン酸施用量の適正値となります。しかし、リン酸は多くの圃場で過剰になっているのが現状です。また、最近ではリン酸過剰がアブラナ科の根こぶ病を発生しやすくすることがわかってきました。
⑧窒素類
アンモニア態窒素(NH4-N)が多い時には未熟な肥料を入れた場合が多く、アンモニアガスが発生するなどの害がでる場合があります。アンモニア態窒素は5mg/100g以下が良いとされています。硝酸態窒素(NO3-N)が多い時は肥料過多の場合が多く、多量に残留すると作物が苦土や鉄などの成分を吸収できないことがあります。また、ECが2mS/cmを超えると作物の生育が阻害されるとも言われています。硝酸態窒素は水に流れやすいので、多い場合には灌水量を増やす等の対策が有効です。 通常硝酸態窒素は15mg/100g以下が良いとされています。
7、土壌の取り方
1)採取場所及び採取量
図のように圃場の5箇所から土壌を同量採取し、それらを良く混合したものを1検体とし、その中の300gを送付してください。
2)採取部位および方法
表土の2~3cmを払い除け、その下の深さ20cmまでの土壌全体を採取します。採取するときに図のようにV字に20cm程掘り下げ、斜線の部分を移植ごて等で一定の厚さになるように掘り取ります。
3)果樹、茶園などの場合
平均的な樹5,6本について樹冠から30cm内側の2,3か所を採取します。永年生作物の活性根は20から40cmに多く分布するので作土部だけでなく、この部位も採取してください。
※採土はステンレス、プラスチックなど土壌分析に影響のない物を用い、サビたスコップなどは使用しないで下さい。
※正確な測定結果が得られなくなるため、肥料の粒が採取土壌に混入しないようにしてください。
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